観る碁のための囲碁入門5

さて実戦の続きです。

第2譜


四隅を置きあった後、黒は5と置きました。これは策ある一手です。
仮に以下のようになったと考えてみましょう。



右下の黒は3手、右の白は2手。黒の方が多く置いているので黒の陣地が大きいのは当然ですが、それにしてもずいぶん大きく見えませんか?囲碁ではそういう感覚を大切にしてゲームを進めていきます。
交互にプレイするゲームはなんでもそうかと思いますが、囲碁も、相手より効率よく置いた方が勝ちます。



黒石と白石を3つずつ置いてみました。どちらの陣地が大きく見えますか?黒の陣地が大きく見えると思います。その感覚はきっと正しいです。そしてその感覚をどんどん研ぎ澄ましていくことが囲碁が上手になるということなんだと思います。


先ほど仮に作った図は黒の陣地が大きく見えたので別の図を作ってみましょう。



先ほどは右下の黒の陣地が大きく見えたので、今度は白6と割って入ってみました。すると今度は左右に黒の陣地ができそう。前回説明したように自分の陣地を囲う反対側に相手の陣地ができやすいです。また、白の陣地はずいぶん小さそうに見えますね。なかなか白に都合よくはいきません。

どうやら相手の石が多いところに入って行くと、効率よく置くのは難しいようです。序盤はそんなことに注意して進めていくことが多いです。

そう思うと、実戦(最初の図)黒9まで相手に近づき過ぎないように間合いを計っているようにみえませんか?

観る碁のための囲碁入門4

では今回から対局を見ていきましょう。
2012年に行われた第17回三星火災杯世界囲碁マスターズ 決勝3番勝負 第1局です。
白は李世乭九段、黒は古力九段。古力九段はAlphaGoと対決する李世乭九段のライバルです。



左が古力九段、右が李世乭九段です。

第1譜


盤上に黒石白石が乗っていて、番号が書いてあります。この番号が盤上に石を置いた順番です。


互いに隅の方から置いていっています。
一般に相手が置けない場所を作ったり相手の石を取ろうとする時、盤の端の方が味方をしてくれます。ほら思い出してください。



1つの黒石を取るのに中央では4個、辺では3個、隅では2個で囲めます。境界が味方をしてくれるので隅から打ち始めることが多いです。

隅の方から置くのがいいのか本当のところはわからないです。囲碁は4000年の歴史があると言われています。隅の方から置くのは4000年で培った人類の知恵のようなもの。でも、その知恵に疑問を呈すべく、最初に盤の真ん中や隅以外に置いて未知の世界に挑戦することもあります。


実戦に戻りましょう。



黒1はだいたい右上を陣地(後で自分の石を埋めることができる場所)にしようという手です。ただそんなに簡単な話ではありません。



黒1に白2と置くと、その後黒と白が交互に打つ限り黒は白2の石を取ることができません。ということは隅は白石が埋まることになります。



一例はこんなかんじです。もっと置いていくと隅の白石は、前回説明したような「取り上げられない石」の形になります。

これで白がリードしたのか?それはわかりません。黒は隅を陣地できませんでしたが、なんとなく中央寄りが黒っぽくなってきました。(点々が書いてあるからそうみえるだけだろうって?^^;)

囲碁は交互に石を置くゲームなので、ある部分を自分の陣地にすると反対側は相手の陣地になりやすいという性質があります。

観る碁のための囲碁入門3

もう少しだけルールにお付き合いください。

置けないところ

前回、基本ルールは五目並べと一緒と説明しました。盤上空いている交点ならどこでも好きな場所に置けることも一緒なのですが、囲碁の場合、ルール上置けない場所があります。

  • 置くと四方を囲まれる形になる場所には置けない
    • ただし、置いて相手の石を囲み、取り上げる場合には置ける

下の図で確認してください。A,B,C,Dに黒石を置くと四方を囲まれた形になるので黒石を置くことはルール上できません。



次は下の図でただし書きルールを確認してください。相手の石を囲む場合には置くことができます。



入門のためのルールは以上ですべてです。

取り上げられない石

さて、囲碁のルール入門の仕上げです。下の図を見てください。



AとBは石のない空の交点です。ここはそれぞれ白石を置くことができません。置くと囲まれる形になりますから。Aにも置けないBにも置けない。白石はこれ以上黒石6個を囲むことができません。なので白からこの黒石を取り上げることができません。相手の石が置けない場所を2箇所作ると取り上げられない石になります。


A,Bに黒石を置くことはできます。でも例えばAに置くと、次はBに白石を置くことができるようになります。黒石の四方を囲んで取り上げることになりますから。囲碁の目的は盤上にたくさん石を置くこと、石を残すことです。黒はAに置けますが置くと盤上の石が減ってしまうので置かないようにします。


ゲームが終わる時はこういう形がいくつかできます。互いに、取れる石は取り上げ、取り上げることができない石の塊を増やして、もう増やせなくなった時がゲームの終わりです。石の数を数えて多い方が勝ち。


ここでちょっとルールの訂正をさせてください。前回、囲碁の目的は盤上にたくさん石を置いた方が勝ちと説明しましたが、正確には、盤上の石の数と(上記図のAやBなど)自分の石で囲んだ空点の数の合計が多い方が勝ちです。


お疲れ様でした。次回から実際の対局(ゲーム)を見ていきましょう。

観る碁のための囲碁入門2

では、対局を観て楽しむための囲碁のルールを説明します。

基本ルール

  • 二人で対戦します。
  • 碁盤と碁石を使います。
  • 一人が黒石、もう一人が白石を使います。
  • 盤の上(線の交点)に交互に石を置きます。置いた石は動かせません。

ここまでは五目並べと一緒です。

目的

  • 盤上にたくさん石を置いた方が勝ちです

(注: このルールは次回ちょっと訂正します)
交互に置いたら盤の上には黒石と白石、同じ数か先に置いた方の石が1つ多いかだけだろうって?確かに。次のルールへ行きましょう。

盤上から石が消えるとき

  • 相手の石の四方をすべて自分の石で囲んだら相手の石を盤の上から取り上げる

このルールがあるので、盤の上の石の数が同じ数か1つ多い状態とは違うことになるのです。つまり囲碁は、盤上にたくさん自分の石を置くために相手の石を取り上げようとするゲームです。

いつ石を取り上げられるか慣れるまで難しいので、下の図で確認してください。下の図は次にaに黒石を置くと白石を取り上げることになる形です。



(ウィキペディアより)

観る碁のための囲碁入門1

来る3月9日から囲碁の世界トッププレーヤ李世乭とコンピュータAlphaGoとの歴史的対決が行われます。


ボードゲームでの人間とコンピュータの戦いとしては、1997年のガルリ・カスパロフIBM Deep Blueのチェス対決が最も有名でしょう。Deep Blueの前身ChipTest以来12年の歳月を費やして開発された専用コンピュータが世界チャンピオンカスパロフを破った当時、世界中に衝撃が走りました。



その後、チェスよりも複雑と言われる将棋も、2012年から始まり現在も続いている電王戦という企画を通じてプロ棋士とコンピュータが戦い、今では機械学習を使ったアルゴリズムとパソコンの性能の進歩のため、トッププロが高性能パソコンに勝つことも難しくなりつつあります。


そんな中、囲碁合法手の多さと目的が陣地を広げることという特殊なルールからコンピュータが人間に勝つのは難しいゲームと言われていました。

囲碁のコンピュータプログラムの開発は、個人や小さなチームに支えられ、少しずつ進歩を遂げていますが、つい最近もプロ棋士にまだまだ多くのハンデをもらってやっといい勝負という状況です。
が、その状況が今年に入って一変しました。
あのITの巨人Googleに属するDeepMindという会社がいきなり碁の世界チャンピオン李世乭にハンデなしの勝負を申し込んだのです。既に欧州チャンピオンを倒したという衝撃のニュースをひっさげて。
そのコンピュータAlphaGoのスペックはCPUが1202個!、GPUが176 個。個人や小さなチームでは考えられない大規模なものです。



論文も同時に発表されましたが、実際の力を推し量る材料は欧州チャンピオンとの5局の棋譜だけ。従来のコンピュータ囲碁とは規模も結果も野望も大きく差があり、一体本当のところどのくらいの実力なのか大勢の人がネット上で推測や疑問をコメントしています。

しかし、それも3月9日から始まる対決を観れば明らかになります。もしかしたらカスパロフ対Deep Blueのように今後何十年も語られる歴史的イベントになるかもしれません。YouTubeで生中継されますので、誰でもそれを「目撃」することができます。


この記事は、囲碁を知らなくてもこの対決を楽しむことができるように、囲碁入門を書いていく予定です。(反響があれば)

日本棋院100周年ビジョン(私案)

日本棋院100周年ビジョンが私的にあれだったので、何様と言われるかもしれませんが、書いてみました。

日本棋院100周年ビジョン(私案)ー100年後のための10の方針ー

ビジョン

日本棋院1924年(大正13年に設立された。関東大震災の翌年のことである。以来、新聞棋戦を中心に棋士の競技基盤を確立した。また海外から才能豊かな棋士を迎えたり、海外対抗戦などを通じて韓国、中国、台湾への囲碁普及に成功し、今では世界戦で後塵を拝するほどになった。

9年後に100周年を迎えるにあたって、現状を鑑み、次のステップに移行するため、棋院の目標、ビジョンを新たに以下の通り定める。

  1. ボードゲームの(アジアではなく)世界標準としての囲碁の地位の確立を目指す。
  2. 棋院所属のトップ棋士に関して世界での存在感を最重視し、そのために普及/教育/棋戦構造を改革する。
  3. 中国、韓国、日本で脈々と培われた囲碁の歴史を今一度確認し、日本での文化としての囲碁の本質を改めて見極め、更に磨き残していく面と世界に伝えていく面を明確にし推進する。
方針

上記3つのビジョンに則って10の方針を策定する。

  1. 1989年に見直された日本囲碁規約を再度見直し、世界で運営可能なシンプルで明確なルールを定義する
  2. 国内棋戦の一部を、世界各国から参加可能な世界棋戦に変更していくようスポンサに働きかける
  3. 従来の事業の柱の1つである稽古・免状ビジネスから、囲碁の娯楽化、大衆化に向けてイベント型ビジネスへ移行する。
  4. 発展途上国でのスマートフォンでも始められるような入門コンテンツの充実を図る
  5. 囲碁を題材とした漫画、アニメ、TVゲームの創出について各分野の関係者と情報交換し低年齢層対象メディア戦略を図る
  6. 有望小学生の中国韓国留学制度を確立する
  7. 国内最高賞金棋戦の世界戦化をスポンサと協議し、世界戦賞金額の新たな標準を確立する。棋聖戦囲碁の「ウィンブルドン」に
  8. 世界の囲碁の歴史の編纂事業に着手し、脈々と続く囲碁の歴史を更に発展させる志を新たにする
  9. 序盤・定石の新工夫に対して国際的な賞を設け、囲碁の技術の歴史を築く
  10. 二日制の国内戦の維持と対局場、対局の空気を通じた日本文化の普及に務める
  11. 対局の終了とは別に棋譜の最終手の定義を明確にして、日本的棋譜文化の世界普及を図る

世界一わかりやすいQ&A式囲碁(純碁)入門

Q. 囲碁ってどんなゲーム?

A. 黒白二種類の石と碁盤を使ってするゲームです。二人がそれぞれ黒か白かの石を持ち、碁盤の交点の上、好きなところに石を一つずつ置いていきます。交互に置きます(ルール1)碁盤の上にたくさん石を置いた方が勝ちです(ルール2)

Q. ふーん、簡単そう。ちょっと待って。交互に一つずつ置くなら碁盤の上にはいつも黒と白が同じ数か一つ違いじゃないの?

A. その通り。一つだけ盤上の石の数が変わるルールがあって、相手の石の隣すべてに自分の石を置くと相手の石を取り上げることができます(ルール3)。なので盤上の石の数に違いが出てきます。下の図で取り上げられる形を確認してください。
次は黒の番です。aに置くと囲んだ白石を取り上げることができます。

(ウィキペディアより)

Q. なるほどー。相手の石を取り上げるように打てば勝てるのね。

A. その通り。ただし、相手の石を取り上げるように置くより、相手がどう置いても最終的に取り上げることになるような形で広く囲うのがいい戦略、戦術です。この戦略を練るところが囲碁の醍醐味であり、面白さ、難しさ、奥深さです。

Q. ふーん、難しそうね。でも初心者でも楽しめるんでしょ?

A. もちろん。最初はどんどん石を取り上げるように置いたらいいですよ。囲碁は別名手談と言われていて、手でする「会話」のような感じがします。ルールは簡単ですが、先ほど言った戦略や戦術は事典が何冊もあるぐらい。その一項目ずつが単語のようなもので、知るほど高度な「会話」が楽しめますが、知らなければ知らないなりに「会話」することができます。

会話ね♪。ちょっと待って。交互にどんどん置いていったら最後はどちらかの石が囲まれて取られるんじゃないの?

A. いい質問です。先ほど「交互に置く」「隣を囲んだら取る」という二つのルールを紹介しましたが、もう一つルールがあって、置いて取れる石があった時には取り上げて、その時自分の石が取られる形(隣を敵に囲まれている形)になる場合にはそこには置けないという禁止ルールがあります(ルール4)。このルールがあるので互いに取られない石ができるのです。

Q. なんか、急に難しくなった…

A. すいません…ここだけちょっと数学的なんです。下の図を見てください。

TODO - 図を用意する。
Q. 空いているところが二つある。

A. そうそう。黒がこの白を囲もうとすると、残りAとBに置く必要がありますね。

Q. うん。

A. ところが、Aに置いてもまだ取り上げられなくて、しかもAに置いた石が囲まれている形だからAには打てない。

Q. ほうほう。あ、同じ理由でBにも置けないのね。だからこの白は取れない!

A. ご明察♪つまり最終的に盤上には空いているところが二つある石の塊ができるようになります。もうこれでQさん、囲碁が楽しめるようになりましたよ。

Q. へぇ、ルールは意外と簡単だったねぇ。

A. あと2つ、コウセキと呼ばれるルールを覚えたら完璧です。きっと実戦をやるうちに不思議な形ができるのでその時説明しますね。

Q. よし、三度の飯より囲碁が好きなあいつに挑戦してみよう!

A. あ、既に囲碁している人とやるときのちょっとだけ注意点を。ここで説明したルールだと最後、もう戦略も戦術もなくなってから盤上にただ碁石埋めていく作業があります。まず小さい碁盤で始めて、相手にも付き合ってもらって実際に埋めてみてください。ただ碁石埋めていく作業にいつなるのかわかるぐらいに実力が上がってきたら、埋めて石の数を数える代わりに、囲っている空き地を数えたくなります。実際の囲碁のルールではそうします。その時には相手の人に数え方を教えてもらってくださいね。

Q. ふーん、早く終わらせる方法があるけど、色々わかってからでいいのね!

A. その通り!エンジョイ!