Discrete Saturation Transform

昨日、久しぶりに感動した技術を書いてみて、今年は、過去に感動した技術/科学を振り返ることをやってみようかと思いました。
Discrete Saturation Transformと名づけられた技術は、動脈血中酸素飽和度を体動があっても精度よく測定する技術です。
血中酸素飽和度は、血液の中のヘモグロビンのうち、何%が酸素と結合して酸素を運んでいるかと示すものです。動脈においては、通常96%以上のヘモグロビンが酸素を運びます。
動脈血中酸素飽和度は、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光率の周波数特性が異なることから測定できます。静脈の血はどす黒く、動脈は鮮血の赤という、あの色の違いのことです。還元ヘモグロビンは酸化ヘモグロビンより赤を吸収するので、どす黒く見えます。赤外では酸化ヘモグロビンも還元ヘモグロビンも吸光率はほぼ一緒なので、この特性と脈を打った時の血液の体積変化から、赤と赤外の透過率の変化を測定すると、動脈血中酸素飽和度を算出することができます。
ところが、変化する量が脈動だけならいいのですが、実際には体が動くと、動脈血だけでなく、静脈血や体液も脈動することになります。すると変化が動脈だけでなくなるので、血中酸素飽和度が動脈成分だけとは言えなくなる。これが動脈血中酸素飽和時計(パルスオキシメータ)の課題でした。
Masimo社のDiscrete Saturation Transform技術は、

  • 体動含めた変化成分は、動脈成分と静脈成分からなる。つまり酸素飽和度の異なる2種類の液体の変化を測定している。
  • 2種類のそれぞれの液体は、片方は動脈に応じた変化をして、もう片方は体動に応じた変化をする。

という仮定をおきます。
すると、動脈の赤外線吸光度ど赤吸光度は同じ波形、体動の赤外線吸光度と赤吸光度は同じ波形ということになります。ところが、それぞれの酸素飽和度が未知数なので、混ざっていると波形がわからない。
ここで、動脈の酸素飽和度が既知ならば、赤外線吸光信号と赤吸光信号を動脈酸素飽和度を使って規格化して、差を取ると、その結果は、体動信号の波形と相似になります。この波形を参照信号として適応フィルタを通すと、元の動脈波形が得られる。
さて、実際には動脈の酸素飽和度は未知数です。そこで、動脈の酸素飽和度が、0%から100%まで百通りを仮定して(酸素飽和度は有効数字二桁で求められれば用が足りるのです)、上記計算を並列に行います。すると、適応フィルタ後の波形の強度が百通りのうち、2箇所でピークを持ちます。1つは動脈酸素飽和度、もう1つは静脈酸素度。当然、動脈酸素飽和度は静脈酸素飽和度より高いはずですから、これで、未知数だった動脈酸素飽和度が決定できました。
体動があっても、動脈酸素飽和度が測定できる。コンピュータの演算速度が速くなったならでの、画期的技術と感動しました。

  1. http://www.masimo.co.jp/IMAGES/technology/lab1035.pdf