アクティブクランプ

学生の頃から30代前半辺りまでは、学ぶことも多く、技術で感動することも色々あったような気がしますが、最近は、既に得た知識のメタファで大体察しがつくか、バカの壁の先にある小難しいことか、分類できてしまって、何か理解して感動することが少なくなって来たのですが、久しぶりに技術で感動しました。
20年前のスイッチング電源の技術、アクティブクランプ。
フォワードコンバータというDC-DCコンバータの場合、降圧チョッパのスイッチングトランジスタをトランスに置き換えて、1次側をスイッチングトランジスタでオンオフさせることにより、電圧変換と絶縁を実現します。
このとき、トランスが理想トランスで励磁インダクタンスを持たなければ良かったのですが、実際のトランスでは励磁インダクタンスが寄生しますので、トランジスタをオフしたときに励磁インダクタに流れていた電流が行き場を失い、サージ電圧を発生させます。このため、

  1. サージに耐える耐圧のトランジスタが必要。
  2. サージエネルギーを損失させる回路(スナバ)が必要。

となりました。また、(Nチャン)トランジスタがオンする際、ドレインに入力電圧がかかっているため、トランジスタの抵抗がオン抵抗に下がるまでの間の抵抗成分による損失と、ドレインーソース間容量に充電された電荷の放電による損失(両方合わせてスイッチング損失と呼ぶ)が効率を落とす要因にもなります。

上記のスナバ回路には、サージエネルギーを瞬時に引き受けるコンデンサとサージの時だけコンデンサを働かせるためのダイオードが不可欠ですが、このダイオードトランジスタにして、適切にオンオフさせると、駆動トランジスタがオフの期間に、励磁インダクタとドレインーソース間容量(実際には大きめの容量が必要なので外付けコンデンサ)の共振、励磁インダクタとスナバコンデンサの共振を制御することができ、それぞれの共振の結果、

  1. サージ電圧が入力電圧の2倍程度にクランプできて、耐圧の低いトランジスタにすることができる。
  2. サージエネルギーがオン直前の励磁インダクタンスに回生させて、サージエネルギーの損失を回避できる。
  3. 駆動トランジスタをオンするときにドレイン電圧を低くにできて、スイッチング損失を回避できる。
  4. 共振の結果、トランスに逆方向の電流が流れるので、コアの利用効率をあげることができる。(B-Hヒステリシスカーブの第一象限だけでなく、第四象限も使うことができる。)

という効果を産むことができます。これがアクティブクランプという技術。
容量のパラメータの調整は必要ですが、部品はダイオードトランジスタに変えただけ。後はタイミング制御が3つの効果を生み出します。
ソフトウエアや論理回路のように難しい論理や工夫を積み重ねた結果生まれる成果ももちろん尊いものですが、たった1つの工夫で、複数の課題を解決するアイデアは、大げさに言えばある種の奇跡に見えます。発明というより発見のフレーバに近い。
スイッチング電源は、実装に踏み込むと素人が容易に参入できない職人の世界ですが、動作原理だけなら高校物理、高校数学で扱える問題です。それでいてそんな美しい結果が用意されているとは。仕事でなければ、自分から目を向けることは一生なかったでしょうね。巡り合わせというものは人だけではないと思いました。

  1. 20年前に米国のVicor社がアクティブリセットという特許を出願し権利化しました。これが、アクティブクランプと同一回路。