ポアンカレ写像

Maximaの学習原稿が少し溜ってきたら、少し欲が出て「Mathematica―理工系ツールとしての (アジソン ウェスレイ・トッパン情報科学シリーズ)」より踏み込んだものが書きたくなりました。方向性に悩んでいましたが、昔の本を掘り起こしてきて眺めていたらタイトルも決まりました。「方程式とMaxima」。気分は「数学・物理100の方程式―連立方程式から数理物理の最先端へ」の改訂版です。
Maximaを使う以上、解と可視化がテーマになるのですが、これで忘れられないのは、Poincaréさんの三体問題に関するノートです。保存力学系(ハミルトン系)は一般に三体(6自由度)以上になると非可積分となりカオス的様相を表します。高次元の軌道の振る舞いを理解するために、Poincaréさんは位相空間を2次元平面で切って、軌道が平面を横切る点の離散点列として力学系をとらえ直しました。Poincaré写像というやつです。可積分系の場合、軌道はトーラスになるので、断面も閉じた曲線になります。ところが非可積分系の場合,この構造が崩れ、特定領域を埋めるように点列が拡散する。コンピュータシミュレーションでPoincaré写像を書かせると、時間がかかりますが、この広がり具合を目で見ることができ、なるほどこれがカオスかと納得できます。
Poincaréさんは、コンピュータがない時代に、自身のノートにその様子を手書きで書いていました。一体どうやって書いたのでしょうね。軌道が式で表現できないのだから、微分方程式を頼って数値積分するしかないはずですが、それであの図を書いたということは一体どれだけの数値積分を頭で手でしたのでしょう。想像を絶します。
偉大な数学者というのは、頭脳が明晰だけではなれないですね。「大変」という文字がないのかもしれない。