ウサギとカメ

ウサギは歩みの遅いカメを見てかわいそうと思いました。手足を交互に動かさず、一緒にかがんで伸ばすように動けばもっと速く走れるのに。
ほらほら、こうすればもっと速く走れるよ、ウサギはからかいながらカメの回りを走りました。
カメは気分はよくありませんでしたが、顔には出さないようにしました。しかし負けたくありませんでした。カメは言いました。「君は本当に足が速いねー。どうだい、山のふもとまで競走しないかい?」
ウサギは気が進みませんでした。カメが負けず嫌いなことは知っていましたし、ウサギは争いに勝っても嬉しくなかったのです。しかしウサギは競走をすることにしました。元々、からかったのが悪かったと申し訳ない気持ちになったからです。
かけっこを始めると、ウサギはすぐに何度も後ろを振り返りましたが、案の定どんどんカメとの差は開いていき、すぐにカメが見えなくなってしまいました。
カメはあきらめませんでした。何があってもあきらめないと決めていたからです。
ウサギはカメがあきらめずに頑張り続けることを知っていました。そしてますます争うことをしたくないと思いました。ウサギはからかったお詫びをどうすればよいか考えました。どう言って謝ればいいか考え続けました。しかし良い言葉は浮かびませんでした。何を言ってもよけい傷つける気がしたからです。息も上がって下を向きながら歩んでくるカメが坂の下に見えました。ウサギは努力しない自分が恥ずかしくなって目をつぶっていました。
カメはじっと動かないウサギを見て、やっぱりウサギはふもとに着く前に走ることにあきちゃったか、やれやれと思いました。そんなウサギに勝つことはうれしくはありませんでしたが、ふもとまで走り続けると決めたカメは寝ているウサギを気にせずにふもとを目指しました。
カメがふもとに到着すると、競走を見届けようとしていた大勢の動物がカメの逆転に感激し、カメを祝福しました。まるでみんな自分のことのように喜びました。カメも誇らしげでした。
ウサギはそれを陰から見て、安心してまた一人遊びに出かけました。いつか友だちができることを夢見ながら。
 おしまい