観る碁のための「この一局から」を求めて

4年半続けた棋戦中継サイト耳赤の運営を4月に終了しました。現在は棋譜は公開せず自分の観戦用にほそぼそとサイトを動かしています。

止めた理由はAlphaGoショックですね。
初めてAlphaGoを観たとき、囲碁ドラゴンボールのような世界だと確信しました。神様の上に界王が居てその上に大界王が居てその上に界王神が居てその上に大界王神が居て…
それを証明するかのようにDeepMind社はAlphaGo LeeのあとAlphaGo Master, AlphaGo Zero/AlphaZeroを産み出します。そして界王拳の極意のようなAlphaGo Teachを残してこの世から消えました。

その後の棋戦中継では、中継中の対局の前例がAlphaGo Teachになってしまうことがしばしば。若手の間ではAlphaGo Teachで提示された手を勝率とともに覚えている人も居るらしく、坂井秀至八段は大盤解説で「碁は覚えるもんになったみたい」と最近の状況の驚きを笑いで表現されました。

これまでプロの素晴らしい棋譜がより多くの人の目に触れる機会になりますようにという想いでリスクを取って、耳赤を運営してきましたが、AlphaGo Teachと同じものをリスクを取って公開しても仕方ないんじゃないかという気持ちがよぎりました。

勝率はともかく世界のトッププロもAlphaGoの手を真似る時代です。第一人者不在の世界。AlphaGoと対決した李世乭さんが「第一人者の孤独」を知る最後の棋士になってしまいました。

かつて、趙治勲さんは大三冠を初めて達成したとき、秀行先生から「おめでとう、しかし、まだまだだ。しっかり勉強せいよ」と声を掛けられたときこう答えたそうです。「はい。しかし何を勉強すればいいのでしょうか」

どんな世界でも本来第一人者は「わからない」最前線に居て孤独なはずなのに、囲碁では、ボードゲームでは、コンピュータが教えてくれるようになってしまいました。
呉清源先生は「プロから見たらアマ5段も5級も一緒」と言われたそうですが、囲碁AIから見たら「トッププロもアマ5段も一緒」という時代に突入しつつあるのだと思います。プロ棋戦を囲碁AIで評価しながら観るとそう思わざるをえないぐらい形勢が揺れ動きます。

ヒカルの碁」のヒカルは佐為が消えたあと、自分で碁を打ったことを激しく後悔し佐為を求めました。そしてもう一度自分で碁を打つことで盤上に佐為を見つけました。(第139局「この一局から」)
私のようなAlphaGoショックの観る碁ファンにこんな日が訪れるのはいつになるのでしょうか。