熱力学入門

熱力学入門

熱力学入門

仕事で熱が関係することもあって、大学の先輩が書かれた教科書を買ってみました。
湯船に浸かりながら(失礼)ざっと眺めましたが、熱力学の理論体系を、表現に細心の注意を払いながら明快に構築されています。概念を理解するという目的なら間違いなく私が読んだ教科書の中で一番ですね。さすがだと思いました。でも、ファインマン物理学のような生き生きとした物理現象の描写は欠けているかも。
後輩として甘えたことを言うなら、熱力学の対象について一章設けて欲しかったなと思いました。出だしで

たとえば「生物の死」という現象は,生物が生きている状態が平衡状態でないので,熱力学の問題ではない.

と明快に避けておられますが、意地悪な後輩は、
「ほう、生物は熱力学の対象じゃないの?じゃ私の体温はこの本で説明される温度とは関係ないのですか?」
と聞きたくなる(笑)。
熱力学は時間の向きに言及する唯一の理論体系ですが、時間のスケール(平衡に達するまでの時間)に言及しない体系でもあります。生物は階層的な時間スケールを持つので、丸ごと熱力学で取り扱うには適さないということでしょうか。
対象の説明がないと、熱力学第2法則が、対象を限定した結果の法則なのか、自然の摂理と考えられるのかがよくわからない。エントロピーが平衡状態でしか定義されないなら、(物理を志す若人のように飛躍すると)宇宙は平衡状態じゃないからエントロピーは定義できないということになってしまう。(ああ、エントロピーは増大するとわかったような顔していうよりその方がいいかも。)
佐々さんは、私の物理センスを褒めてくれた優しい先輩でした。ますますのご活躍をお祈り致します。