観る碁のための囲碁入門20
局面が一段落したので、今回は、紹介中の対局の李世乭選手の対戦相手、古力選手をご紹介します。
古力選手も李世乭選手と同じ1983年生まれ、現在33歳。中国のプロ棋士です。名前はグリと読みます。
19歳で国内タイトル天元を奪取、以後6連覇。2006年にLG杯世界棋王戦優勝、2009年には、トヨタ&デンソー杯、LG杯、BCカード杯の世界戦3冠。昨年にも春蘭杯(世界戦)優勝。国内タイトル獲得数30、世界戦タイトル獲得数8、まさに李世乭選手のライバルです。
二人とも現在30代ですが、今、棋士の全盛期年齢は20代と言われています。
遡ること50年前、45歳の坂田栄男名人が23歳の林海峰挑戦者を迎え撃つ際「20代の名人などありえない」と豪語しました。この頃の棋士の打ち盛りは40代。囲碁は円熟した芸、誰もわからない局面でその人なりの価値観を競うゲームでした。
23歳の林海峰選手が名人を獲得し、世に衝撃を与えたのと同時に囲碁界の若手にも強い刺激となりました。ところがこの若手選手たちが集団で活躍し続け、40代打ち盛りに戻ります。将棋の今の羽生世代と同じですね。木谷門下時代とでも言いましょうか。
次の流れは韓国で起こりました。当時16歳だった李昌鎬(イチャンホ)選手が世界戦優勝を果たし、次々と世界戦を制覇していきます。その刺激で韓国中国で若手が急成長しました。
今の世界のトップを支える力は芸というよりは読みのようです。世界戦が持ち時間3時間以内の「短い」棋戦中心だからということもあるかと思います。
3時間で短い?ええ、日本のタイトル戦には今も2日かけて戦うものがあり、持ち時間は8時間です。そもそも持ち時間が導入されたのは昭和に入ってから。それ以前は無制限で勝負していました。
持ち時間3時間以内では全盛期は20代なのか。李世乭、古力の二人はその定説に真っ向から挑戦中と言えると思います。
藤沢秀行というすごい人(どうすごいかはまたの機会に)のおかげで、昭和の頃、日本囲碁界は中国囲碁界と交流がありました。そのためか、韓国が李世乭選手中心に日本とは違う独特の囲碁観を創り出したのに対して、中国の棋士には今でも日本の碁の香りがする気がします。古力選手も盤全体を使った構想や厚みから攻めの流れなど、木谷門下時代を感じます。
木谷門下時代の日本のトップ(事実上世界のトップ)と今の世界のトップが戦ったらどうなるのでしょう?
こういう歴史の「たられば」に答えはありませんが、もしかしたら近い将来コンピュータ囲碁がある種の示唆を示してくれるかもしれません。