観る碁のための囲碁入門15

第14譜


黒が77と飛び込みました。先に黒Aと備えていたからできる技です。これで左下の白も心細くなってきました。
対して白は78、80と返し技です。白80はすぐに取られてしまいますが、あわよくば後で黒77を取り返すぞという手です。

第15譜


白82に黒はすぐに左下の白を取りに行くのは無理と判断して、黒83,85と左下の黒を生きました。
中央下の白のスペースが狭くなったので、白86と頭を出し、黒も87と頭を出します。
そして白88。これは相手の出方を見る手です。右下は黒が効率よく陣地らしきものを築いたところでした。そこにツケることで、陣地を大切にしますか?それとも中央下の白の攻めを続けますか?と聞いています。相手の出方を伺う手を「様子見」と呼びます。


ところで、左下の白は生きているのでしょうか?難しいです。プロなら結論が出ていて双方その結論に基づいて作戦を立てているんだと思いますが、普通のアマチュアだと…
少し見てみましょう。



相手の陣地になりそうなところを狭めるために黒1と打ってみます。これに対して白2と打ったらどうなるか。
(もし白3と打ったらどうなるか後で見てみます。)
黒3の時、白4が第14譜白80と打っておいた技の活用です。次に白5と打てば黒が打てない場所が2箇所できますから、白生きです。なので黒5。そこで白6!わざわざ取られる手を打ちます。
黒はAと継ぐと黒石4つがアタリになってしまいます。なので白6を取ります。
これは一体なんでしょう?白がまた6と取り返し、黒が取り返し、白が取り返し…きりがありません。
こういう形をコウと呼びます
きりがないとゲームが終わらないので、「コウはすぐに取り返してはいけない」というルールが実はあります。実例を見ないとピンと来ないので今まで説明しないでおきました。このコウのルールが、奥深い囲碁をさらに奥深くします。
この変化だけ見ると、「左下の白は生きているのか?」という問いには「生きても死んでもいない。コウになる」という答えになります。生きているのと死んでいるのの間があるなんて不思議ですね

豊臣秀吉から初代碁所に任命された本因坊算砂(以前に紹介した日海のことです)は
 碁なりせば 劫(コウ)なと打ちて生くべきに
  死ぬるばかりは 手もなかりけり
という辞世の句を詠みました。


白が3と黒1を取る変化も見てみましょう。



黒は連絡をさせないように3と打ちます。以下、黒7までまたコウになりました。白Aには黒B。先ほどのコウは最初に黒が取りましたが、このコウは白が取ります。なので同じコウなら先に取れるこちらを白は選びます。実は前の図も白6を先に打つと白が先に取るコウになります。


ところで、この図、左辺上の白がなんだか心細いです。この白は大丈夫なんでしょうか?



観る碁のための囲碁入門12でこの白は、黒と白が交互に打つ限り生きていると説明しました。
しかし、黒Aが加わったことにより状況が変わっています。黒1白2黒3白4と交互に打って黒が打てない場所を2箇所作るはずでしたが、黒Aがあることで黒5と打てます。すると黒が打てないはずだったBの場所が、今は白石2個を取ることができるので打てることになります。
白石は生きていないので、他の白石と連絡する必要があります。果たして連絡できるのか。
白14まで連絡することができました。ずいぶん前に打った白Cがこんなところで役に立つようになっていたんですね


右下の白について、黒1の変化を少し見ましたが、他にも白の陣地っぽい内側から打つ手など色々な変化を対局者は読み切って作戦を立てています。「この一団は果たして死ぬのか生きるのか」ハラハラしながら見るのが囲碁観戦の醍醐味です