観る碁のための囲碁入門12

第10譜


本譜は黒に囲まれた白石2個を取られない形にする過程です。途中いくつも疑問が湧くかと思いますが、出来上がった形に注目してみましょう。



記号がいっぱいあってすいません。もし黒がAと打てば白はB、黒がBと打てば白はAと打ちます。同様にもし黒がCと打てば白はD、黒がDと打てば白はCと打ちます。
こう対応することで、白は必ず「取り上げられない石」の形になることを確認してください。まだ周りが全部埋まっていないのでわかりにくいかと思いますが、交互に打てば取り上げられない石の形になることが確定した石のことを「生きている石」と呼びます。白44がとても大切な一着です。ここに打つことでこの白石の一団が「生きる」ことができます。

白が44で別の場所に打ったらどうなるか想像してみましょう。



例えば白1と打ったら。黒は2と打ちます。この白石は一体どうなっているのか。わかりやすくするために周りを詰めてみましょう。



取り上げられない石の特徴は、取ろうとする側が置けない場所が2箇所あることでした。上の図では黒はA,B,Cと打っていけます。A,Bと打つと白も黒もアタリになるので、白は一度は黒3個を取り上げることができますが、黒は取り上げられた後にまた打つことができる。こうして最後は白の一団全部が取り上げられます

白44が「生きる」ためにとても大切な一手だと感じ取ってください。

観る碁のための囲碁入門11

黒が白を左辺に圧迫しとうとして、白が反発して戦いが始まりました。

第9譜


黒が29と打って白28をあと一手で取れる形にしました。相手が何もしなければ次に取れる形を「アタリ」と言います。(なんででしょうね?)また、アタリにする手を「アテ」と言います。

アタリなので白は30と逃げます。黒は31と追いかける。互いに石を置くだけで一度置いた石は動かないのですが、囲まれると取られることを思うと、逃げたり追いかけたりしているように見えますよね?


黒31はアテではないのですが、次にすごい技を出そうとしています。もし白が左辺の囲まれそうな白石2つを逃げたらどうなるか見てみましょう。



白が1とアテ、黒が2と打ち、白3と左下の白との連絡を図ると、黒は4とアテを打ちます。さて、この白2つは逃げることができるのか。



なんと!黒が間違えないようにジグザグにアテていくと、白29が元々あった黒石にぶつかって次に黒Aと打って白15個を取り上げます。大漁大漁^^こうなったらもう白は勝てる見込みはないですね。15個の白石が活用できずに盤上から消えてしまうのですから。
このようにジグザグにアテで追いかけることをシチョウと言います。


実戦、白はこのシチョウを避けるために32と打って先に逃げしました。黒は次に白からAと分断されないように33と守りました。

観る碁のための囲碁入門10

第6譜

白が22に挟んだのに対して、黒は23と中央に向かって一つ開けて中央寄りに打ちました。こういう手を一間(いっけん)トビと言います。
上にも下にも白石がある状態なので中央に頭を出すのは自然な手ですが、左上だけ見ると比較的珍しい手です。
よくあるのは、Aと隅の白を挟撃するか、Bと隅に入るか。どちらを選んでも挟まれた黒石を捨てることになりそうで、左辺の白模様が大きくなるのでこの場合は黒がそれを避けました。

第7譜


白は左上と左辺、どちらを打つか迷うところですが、普通は白24と隅を構えます。この手の意味は、トんで2つになった黒石をまだまだ攻めるぞと挟んだ時からの主張の継続です。黒石を取ってしまえるわけではないですが、攻めることによって上辺と左辺を陣地にしようと考えています。



白1と左辺から攻めることも考えられますが、黒2と打たれると左上隅の白が窮屈な感じです。この感覚は実は観ているだけでは得るのは難しいです。どちらから攻めるのが得か実戦で経験を何度も積んで少しずつ自分なりの仮説を作っていく必要があります。

第8譜

白に左上上辺を守られたので、黒25と左辺の白を圧迫に行きました。挟んで攻め返すことも考えられますが、左下に白が控えています。ここは白石が多いところなので25を選びました。
対して白は26。黒は一方的に分断されないように27。そして白28!


ついに白黒双方が分断されるという形になりました。開戦、戦いの始まりです。

観る碁のための囲碁入門9

実戦はいよいよ戦いが始まろうとしています。囲碁の戦いって何?という方多いと思いますが、ちょっとここでコーヒーブレイク^^


今回は李世乭選手がどんな人がご紹介しましょう。



tygem.comより


李世乭選手は1983年生まれ、現在32歳。韓国のプロ棋士です。名前はイセドルと読みます。


17歳で国内戦初タイトル、32連勝を記録。富士通杯世界選手権を2002年、2003年と連覇。国内戦タイトル獲得数23、世界戦タイトル獲得数18。今世紀に入ってから現在までの成績では突出した世界のトップです。


本人がインタビューで全盛期は2009年までだったという発言もしていますが、最近も年末年始にかけて、夢百合杯と呼ばれる世界戦で決勝を争い、20歳前後の選手が大勢台頭する中、存在感を示しています。


少し脱線しますが、囲碁は4000年ぐらい前に中国で生まれたと言われています。本当だとするの中国の文字(漢字)より古いということになり衝撃ですね。
1100年頃(日本の平安時代)には当時のトップが既に相当の棋力だったことを示す棋書が編纂されています。


日本に伝わったのは奈良時代以前のようです。
豊臣秀吉が名手日海に碁所(ごどころ)という役職を与えた時から江戸時代が終わるまで時の権力者の保護によって文化的地位を得て飛躍的にレベルが上がったそうです。特に棋譜を残すという慣例が確立され、研究が行き届くようになったのだと思います。保護とは言っても今時の文化保護とは違い、家元四家による碁所を賭けた熾烈な争いがありました。


そんな切磋琢磨の時の流れの中、節目節目に天才が現れて、碁とはこう打つものという考え方自体を変えていきます


李世乭選手も間違いなくその一人です。李世乭以前と李世乭以後、トップの選手が打つ碁がはっきりと変わりました。以前は陣地で先行するタイプと形を整えて戦いに備えるタイプというように好きな戦略で選手を分類しやすかったのですが、李世乭選手はどちらとも言えず、盤全体を使って複雑な局面にして複雑になるほど自分が正確に打てるという戦略を取りました。(すいません、私、強くないアマチュアなのでこれは単なる個人の印象です)
李世乭選手が登場してからは序盤から非常に激しく戦う碁が増えたと思います。


そんな背景をぼんやり頭に浮かべながら、明日から実戦の続きに戻りましょう。

観る碁のための囲碁入門8

実戦の続きを見ましょう。

第5譜


白は下辺に入っていくことは一旦諦めて、白18黒19と換わりました。


もし白18黒19を打たずに、白20と打ったらどうなるか想像してみましょう。



黒は2と右辺の白に迫りそうです。次に黒にAと打たれると白の2つの石が分断されそうですね。黒は2で、

  1. 右辺の白の2つの石への攻めを狙っている
  2. 下辺の陣地っぽいところを更に広げて白から入りにくくしようとしている

という二つの狙いを持っています。

ところで、陣地っぽいところというのを囲碁用語で模様と言います。

狙いが2つ以上あると、普通は相手は両方を避けることができないので、どちらかで効果を得ることができそうです。(五目並べの三三と一緒ですね。)


先ほど「右辺の白の2つの石への攻め」と説明しましたが、囲碁での攻めとはなんでしょう?
以前に取り上げられない石になるには仲間が必要なことを説明しました。もう少し詳しくいうとある場所に石を置いたら、その石を取られないようにするには、仲間を置ける空いた場所が周りに必要ということになります。相手の石に近づくということは相手の仲間の置ける場所を奪うということになります。これが攻めです。
では攻めの効果とはなんでしょうか?囲碁の目的は石をたくさん盤上に置くことですが、このことと攻めはどういう関係があるのでしょうか?



Aと打たれるのが不安で白3と守ったとしましょう。すると、黒は2を先手で打てたことになります。先手を続けることができると自分の思った通りに石を置いていけますね。これが攻めの効果です。

ですが、注意も必要です。以前に、石をツケた時は、相手の石を取ろうとしているけど実は自分も取られやすくなっていると説明しました。攻めも同じ意味合いがあります。相手の石に近づいて相手の仲間の置ける場所を奪うということは自分の仲間の置ける場所がすでにそこにはないということなので、近づいた石は実は攻められやすくなっているのです。そう思って見ると、黒もBがちょっと不安に見えるかもしれません。


実戦は、上のような展開を白が嫌って、白18と打ったのかもしれません。



実戦その後白20と左辺を広げて、黒が21と入っていきました。右上と似たような形です。右上では黒はBと受けましたが、今度は白22とハサミました。これは、白は左上より左辺を大切にしますという主張です。白20と白22の関係に注目してください。


昨日の第4譜では黒が下辺を広げる構想を見せました。そして今日は白が右辺を先手で切り上げて左辺を広げる構想を展開。さあこの後どうなるか。

観る碁のための囲碁入門7

第4譜(再掲)


黒11は「ブツカリ」と呼ばれるごつい手です。一手だけ見てましょう。



黒11と打つと白Aはほぼ絶対です。なぜか?



仮に白が他の場所に打つと黒はすかさず13と白を一方的に分断します。白のAとBがとても心細く見えませんか?
観る碁のための囲碁入門3で説明した「取り上げられない石」の形を思い出してください。取り上げられない石になるためには連絡した仲間が必要です。
白のAとBは仲間になれない形になりました。なのでA,Bは取られないようになるためには別々に仲間を作る必要があります。効率が悪いのです。
白12も陣地っぽいところを広げた大きな手ですが、前に打ったA,Bの効率が悪くなると黒がリードということになります。



なので実戦白12と打ちました。この瞬間のくっついた石の周りをしっかり見てください。黒の周り空いているところは3箇所、白の周り空いているところは4箇所、黒の方が少ないです。つまり黒の方が取られやすくなっている。囲碁は取られない石をたくさん作るのが目的のゲームですから、こういう手は比較的珍しいです。



もしかしたらそろそろ黒13は自然な手に見えてきませんか?
黒17まで定石の一つができました。黒17に注目してください。白Aと打つと次に黒が取る手があります。なので白はAに打っても損するだけ。Aはルール上白が打てない場所ではないですが、白が打ちにくい場所があるので黒の一群は取られにくい石の形になったと言えます。



黒17を一つずらして打った時と形を比べて、どちらが効率がいいか感じ取ってください。


もう一度第4譜を見直してみましょう。



黒11は自分の方が取られやすくなる比較的珍しい手と説明しました。隅だけを見ると白の陣地が多い。ところが左下隅の黒石と黒A,Bの連携を感じ取ってください。下辺一体に黒石の多い場所ができました。
以前に相手の石の多い場所に入っていくとあまり効率良く打てないという話をしました。
下辺はまだ黒の陣地とは言えませんが、白が入りにくくなっています。


下辺を白から入りにくくるというのが黒11を打った時の黒の構想、作戦だったのです。

観る碁のための囲碁入門6

第3譜


白10と置きました。この手は今までの手と全く意味が違う手です。相手の石にいきなりくっつけて置く手をツケと呼びます。

他のゲームもそうかもしれませんが、囲碁はゲームを通して、言葉なしに会話が交わせると言われます。そういう意味を込めて、囲碁には「手談」という別名もあります。
その一方で、「ツケ」のように囲碁には盤がなくても言葉でゲームを語れるように特別な用語がたくさん用意されています。囲碁用語で最初の不思議な言葉は、自分の番で石を置くことを「打つ」ということです。「いい手打たれた」とか。石を置いているのに、なんで打つっていうんでしょうね?一度置いたら動かせないという意味なのでしょうか?

ルールを思い出してください。相手の石の四方を囲んだら相手の石を取り上げます。つまりツケは「あなたのその石を取るよ」と言っていることです。
ところが、よく見てください。



相手の石にツケると、実は自分の石も四方が自ら囲まれやすくなっていますよね。相手の石はあと3つ囲むと取れますが、自分の石もあと3つ囲まれると取られます。しかも次は相手の番。
囲碁には「取ろう取ろうは取られのもと」という格言があります^^
ではこれに黒はどう応えるのでしょうか?白の意図はどういうところにあるのでしょうか?続きを見てみましょう。

第4譜

お互いに主張した結果として、白は盤の左下の方を陣地にして、黒は盤の下の方に黒石の多い場所を作りました。広いですが、陣地と呼ぶにはまだちょっとスカスカしてますね。
この手順よく打たれます。よく打たれる手順を定石と呼びます。

将棋を指される方はおなじ「じょうせき」でも定跡という漢字を浮かべられるかと思います。将棋の定跡は盤全体の手順ですね。囲碁の定石は盤の一部、部分的な手順を示します。

ここでちょっと第3譜に戻りましょう。白はツケましたが、それ以外の定石もあります。



実戦のツケはCですが、その他にAからIまでそれぞれに定石があります。それ以外の手は悪いかいうと効率が悪くなる場所もありますが全部がそういうわけでもない。まだよく研究されていない場所も残っていると思います。それに定石の手を打っても途中で定石から離れることもある。

白はCにツケる前、それぞれの定石や定石以外の手を打ってみるとその後、盤全体の他の石とどういう関係になるか想像して着手を決めます。


白の選択肢がたくさんあることを示しましたが、そもそも黒が実戦の9と打った時も色々な選択肢の中から選んでいます。何か途方にくれますよね^^;
定石にはそれぞれ方針があります。序盤に石が接近した時に着手を決めるには、方針を決めて方針にあった定石を選ぶのが一つの考え方です。なので、本当は定石を色々知っておくと対局観戦が楽しめます。でも大丈夫。囲碁は何も知らなくてもこちらが広そうとかいう感覚が意外と正しいものです。自分の感覚を信じてプロの対局を楽しんでください。